【感想】きりこについて(西加奈子) 子どもたちは酔っ払い!?
最近、西加奈子の小説にはまり出した。今回は「きりこについて」を読んだので感想を書こうと思う。
あらすじ
きりこはぶすであるが、両親に可愛いと言われて育ったため、コンプレックスを抱くことなく自信を持っていた。しかし、思春期を迎え、好きな男の子からぶすと言われたことをきっかけに落ち込み、自分の容姿に悩まされて引きこもってしまうが、あることを契機に立ち直っていく。
上記のように簡単に説明できるほどストーリー自体はすごくシンプルで、約200ページとボリュームは少ない。しかし、飼い猫ラムセス2世からの目線で描かれており、また考えさせるような哲学的要素も盛り込まれ、良い感じにスパイスが効いている。
ぶすとは!?
何せ最初の出だしが「きりこはぶすである。」から始まるのは、衝撃的である。その後はきりこがいかにぶすであるかの説明が面白おかしく描かれている。
“顔の輪郭は、空気を抜く途中の浮き輪のように、ぶわぶわと頼りなく、眉毛は、まるで間違いを消した鉛筆の跡だ、がちゃがちゃと、太い。……”
ここまでぶすの表現が手を替え品を替え繰り広げられるのはさすがにこの小説以外ないだろう。しかし、全く嫌な感じはせず、何だかほっこりさせられる。
子どもたちは酔っ払い!?
西加奈子の小説を何冊か読んだが、思春期の子どもたち特有の空気感を描くのが巧い。「きりこについて」は思春期までの子どもは酔っ払った状態で、思春期を迎えると酔いから醒めると表現しているが、正にその通りだと思う。酔っぱらっているときは、大したことでもないのに笑い転げることができるのだ。思春期を迎え、現実を知り、しらふに戻るのである。娘も何が面白いのか分からないが、同じことをして、同じことを言って喜んでいるが、これも酔っ払った状態なのだろうか(笑)。
子どもへの愛情の注ぎ方
この小説で注目すべきは両親(パァパとマァマ)の子供への関わり方についてである。パァパとマァマはきりこへの褒め方が半端ない。可愛い、可愛いは外見のみならず内面も褒めていたのだろうが、他人からどう思われようと褒めまくるところは良い親だなと思う。なかなかここまでは出来ない。きりこは思春期を迎え、周りからぶすと言われ、自分の容姿にコンプレックスを抱き始めるが、パァパとマァマのきりこへの関わり方は変わらない。子どもが鬱陶しいと思うくらいの関わり方が良いのだろう。
色々書いたが、読んだ後はどこか温かい気持ちになれる小説だ。