親子旅行記

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赤鼻のセンセイ副島賢和先生の講演を聴いて 自分の感情を大切にすること

 副島賢和先生という、院内学級(昭和大学病院内のさいかち学級)の先生がいる。院内学級とは、簡単に言うと、病院の中の教室であり、全国に200あるという。副島先生は年間120人の子どもと関わるが、1人当たりでは僅か平均1週間だそうだ。元々は公立小学校の先生をされていたが、2006年からさいかち学級の担任となった。

 NHKのプロフェッショナル仕事の流儀に取り上げられたり、大泉洋主演のドラマ「赤鼻のセンセイ」のモデルにもなった人である。副島先生の講演が八王子であり、行ってきたのでその概要と感想を書く。

 

〇講演の概要

 講演では、まず登場するとすぐに、子どもたちにやるように、赤鼻をつけ、手品やバルーンが繰り広げられた。(ちなみに、赤鼻は子どもの前や講演に限らず、街中や電車でも付けるそうだ。)講演のテーマは最初は「笑いも涙も力になる」と掲げられていたが、副島先生の意向により「涙も笑いも、力になる」になった。

 

講演は以下の4つについて進められた。

①当事者意識

②子どもの声

③子どもの感情

④ひとり一人を大切に

 

①当事者意識

 当事者意識を持つということはとても大変なことであるが、そんなときは視点を変えて見ると良いそうだ。

 視点を変えて見ることについて理解するために、会場で簡単なゲームを行った。天井に向けて人差し指を上げて円を描き、そのまま下ろし、目の下まで持ってくると、不思議と逆に回っているように見える。下から見るのと、上から見るのでは物事が異なって見えることを伝えるために、子どもたちにもやっているそうだ。

 

②子どもの声

 入院している子ども達は、多くの喪失体験から否定的な自己イメージを持っているという。そのため、かかわりや教育によって肯定的な自己イメージを持ってもらうようにする。 もちろん、子どもの方からもメッセージを発信していることがある。ただ、それは言語化されたものとは限らない。大人は子どもに言語化を求めるが、必ずしもそれができるわけではなく、子どもは行動化、身体化という形で表現することもある。それは大人にとってはノイズであるが、子どもにとってはサインやシグナルであり、メッセージである。そのメッセージにいかに耳を傾けられるかが鍵となる。

 会場では「そうですねゲーム」というものをやった。2人1組になって、Aさんは「あれは〇〇ですね。」と言い、Bさんは「そうですね。」と頷くものである。これにより、子どもたちに話の聴き方を教えるそうだ。話の聴き方のキーワードは「あいうえお」。「あいてをみて、いっしょうけんめい、うなずきながら、えがおで、おわりまで」。

 

③子どもの感情

 子どもの感情の中でも、イライラする、面倒くさいといった不快な感情も大切にしてほしいそうだ。特に大人はそんな気持ちを持ってはダメだと言いがちであるが、感情にいい悪いはない。どんな感情も大切にして、その伝え方を学んでほしいという。一方、大人は不快な感情に対して、抑え込んだり、先回りして取り除いたり、無視してはならない。だからといって、子どもの要求を全て受け入れるのではなく、受容(感情を受け止めること)はするが、許容(行動を容認すること)はしないというスタンスを取ることは大事。

 院内学級では粘土等でお弁当を作ったそうだが、医師、看護師から食事制限している子どももいるのだから控えてほしいと言われたそうだ。これについて、副島先生はどんな感情も大切なのだから、お弁当作りは続けたという。

 

④ひとり一人を大切に

 入院している子ども達は病気を自分のせいにしがちだ。そのため、自分のことをもっと大切にしてほしいとメッセージを送るようにしているという。自尊感情には基礎的自尊感情と社会的自尊感情があるそうだ。基礎的自尊感情は、「生まれてきてよかった」や「自分に価値がある」といった自分のことを大事にする感情で、社会的自尊感情は「できることがある」や「他の人より優れている」といった相対的な基準によって生まれる感情である。学校では行動に対して褒めるなど社会的自尊感情に重きを置きがちであるが、基礎的自尊感情が土台となって社会的自尊感情が築かれるのが望ましいという。Doingの前にBeingである。

 

〇講演の感想

 副島先生の著書は読んだことがあるが、実際に話を聞くと、よく通る声で話され熱量が伝わってきた。テーマとしては上記のことを話されたが、それより印象に残ったのは子ども達のエピソードである。スクリーンに子ども達が言ったことが表示されて、どんな子どもが言ったのか、どうしてそのように言ったのか、そのとき自分はどう思ったのかを丁寧に話されて、情景がまじまじと浮かび上がってきた。特に印象に残ったのは、「おやくにたてればよろこんで」という言葉。絵の得意な小学校4年生の女の子が言ったそうだ。日々できることがなくなっていく中、副島先生が女の子に絵を描いてほしいとお願いしたところ、女の子の口から出たそうだ。副島先生は素敵な言葉だと子どもから学んだという。一人ひとりの子どもと向き合い、大切にしていることが感じられた。

 また、講演では自立に必要なことは何かという問いがあり、その答えが意外性のあるものだった。その答えは、一見矛盾していると思ええる依存先を増やすことだそうだ。確かに人は1人では生きていけないので、頼ることは重要なことだ。グラフにすると、自立が徐々に増えていき、保護が徐々に減っていき、交差するところが思春期だという。子育てにおいても、自立と保護のバランスが鍵となるので、子どもがどの段階にいるのかをよく見ながら子どもと関わっていきたいと思う。

 そして、子どもにも自分の感情を大切にしてほしいと伝えることは重要であるが、私自身も自分の感情を大切にしていきたいと思った。